2025年1月04日
本日はアレルギー性鼻炎についての内容です。
多くの方が春先にかけてが鼻水や鼻づまり、くしゃみなどの症状に悩まされていると思います。
花粉症は、花粉が飛ぶ季節に、花粉が原因で上記のようなアレルギー症状を生じるもので、季節性アレルギー性鼻炎とも呼ばれます。花粉症を来たす代表的な植物は春先のスギ、ヒノキですが、夏季を主として長期間飛散するイネ科植物(カモガヤやハルガヤ)、秋にかけてのヨモギ、ブタクサなどもあります。
近年スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の罹患率は年々上昇傾向にあり、2019年の疫学調査ではアレルギー性鼻炎の有病率は50%程度、スギ花粉症の有病率は40%弱との報告がありました。アレルギー性鼻炎の有病率は年々増加傾向であり、11年前の疫学調査と比較して全世代で増加・特に10代でのスギ花粉症の有病率は著明に増えていました。
福岡県は全国平均よりはやや低い罹患率でしたが、日本上空の偏西風が西から東に吹いており、西は海であるため全国平均よりは花粉の飛散量が少ないのではと考えております。しかし、大陸と近いため中国から飛来する黄砂などPM2.5の影響が大きく、今後記載する予定ですが化学物質が原因となる化学性鼻炎・咽頭炎などの症状を来たしやすいという地理的特徴があります。(化学物質には鼻粘膜のバリア機能を破壊して鼻炎症状を来たし、アレルギーの原因物質に触れたときの過敏反応を助長するものがあります)
来年度の飛散開始時期は例年通りですと2月上旬ですが、花粉症の薬の効果は蓄積によって作用が向上するため、症状の強い方は飛散開始2週間前頃から治療を開始するとより効果的です。
アレルギー性鼻炎、花粉症の治療は主に薬物療法、手術、免疫療法に分類されます。
薬物療法はいくつかの異なる作用をもつ薬剤もしくは点鼻薬を、症状の程度に応じて組み合わせて使用するのが一般的です。アレルギーの原因となる物質により反応性に体内でヒスタミンやロイコトリエンといった物質が生成されます。抗ヒスタミン薬はヒスタミンを抑制することでアレルギー症状を抑える、アレルギーに対して最も一般的に使用される薬剤です。ロイコトリエンはアレルギー反応によって鼻から気管支にかけて多く産生され、同部位に炎症を起こすことで空気の通り道を狭くします。抗ロイコトリエン薬は、即効性はありませんが、気管支の収縮抑制効果や鼻閉改善効果があります。ステロイド点鼻薬はアレルギー性鼻炎に対する治療効果が最も高いといわれています。ステロイドホルモンはアスリートのドーピング薬としても知られており、長期間全身投与することで血圧や血糖など全身への合併症のリスクがありますが、鼻局所に投与することでこういった全身合併症のリスクを抑えて、比較的安全に使用することができます。
その他、ヒスタミンなどとともにアレルギー反応をおこす化学伝達物質であるトロンボキサンA2阻害剤や、化学伝達物質の細胞からの遊離抑制を抑える薬剤などもあります。また、市販の点鼻薬に多くみられる血管収縮薬は、無理やり鼻の血管を収縮させることで一過性に鼻の通りを改善させますが、長期間使用すると無理やり収縮させられた鼻の血管の拡張作用を助長し、薬剤性鼻炎の原因となりますので使用には注意が必要です。
手術療法には鼻粘膜へのレーザー治療や、鼻の粘膜・骨を削る下鼻甲介手術・鼻中隔矯正術、鼻汁分泌を促す神経を焼き切る後鼻神経切断術があります。
レーザー治療は下鼻甲介といわれる空気の通り道に分布する鼻の粘膜にレーザーをあてて凝固、収縮させることで鼻の通りを改善させます。粘膜は徐々に修復・再生していくため治療効果は2年弱といわれています。鼻の骨に関する手術は顔面形態の形成が終わった思春期以降(18歳以降)で可能な手術です。9割の方は大なり小なり鼻中隔(左右の鼻を隔てる隔壁)が鼻内で彎曲しており、矯正することで鼻閉改善効果が期待できます。全身麻酔での手術となり、鼻汁くしゃみといった症状には効果が期待できません。後鼻神経切断術は、鼻水、くしゃみを支配する神経を鼻の奥で切断することで鼻汁・くしゃみの改善効果があります。一般的には下鼻甲介骨切除術と併用で行い、18歳以降での適応となります。
免疫療法(減感作療法)はアレルギーに対する唯一の根治治療といわれています。
スギ花粉症とダニに対するアレルギーに対して適応があり、アレルギーの原因となる物質を体内に持続的・長期的に取り込むことで徐々に体のアレルギー反応をおさえていくという治療です。5歳以降が適応で、奏効率は80%以上、喘息予防や他のアレルギーの新規発現予防効果があるといわれていますが、3年以上の長期的な治療が必要なのと、特にスギ花粉症に関しては、飛散時期に同時にアレルギーの原因物質を取り込み始めると副作用やアレルギー反応が強く出るリスクがあるため、夏~秋にかけての治療開始が推奨されています。
特殊な治療として、重症のスギ花粉症の方で適応が非常に限られて自己負担額も大きくなるのですが、抗IgE抗体の注射薬「ゾレア」という薬剤が2020年に適応となっております。
また、当院ではヒスタグロビン注射療法を行っております。ヒスタグロビンは花粉症、アレルギー性鼻炎に対して保険適応がある、非特異的な減感作療法です。アレルギー反応の際に体内で生成させるヒスタミンに対する抗体を体内に生成することを目的としています。スギやダニといった特定のアレルギー物質に対する舌下免疫療法とは異なり、スギ、ヒノキ、ブタクサやダニ、ハウスダストといったすべてのアレルギー疾患から体質を改善する根本治療です。気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などの疾患にも有効で、アレルギーへの有効率は50〜70%と言われています。1-2週に1回のヒスタグロビンの皮下注射を計6回を1クールとして行い、場合によってはもう1クール追加します。
花粉症の場合は花粉シーズンが始まる1月程度前からの開始が望ましいといわれていますが、興味がある方は診察の際にお声がけください。眠気、めまい、頭痛嘔気といった副作用が稀に起こることがあるのと、妊娠中・月経中の方は投与できません。
次回は特殊な鼻炎(局所アレルギー性鼻炎や寒暖差アレルギー、萎縮性鼻炎、老人性鼻漏、薬剤性鼻炎など)について投稿予定です。