2024年10月19日
今回もめまい疾患に関していくつかご紹介します。
持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)
持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural― Perceptual Dizziness:PPPD)は3か月以上持続し、ほぼ毎日発症する浮動感、不安定感、非回転性めまいといった症状を来します。立位や歩行、体動、特定のものを見た時に症状が悪化すること、発症の原因となる何らかの疾患やきっかけが存在することを特徴とします。
本疾患は女性に多く、就労期の若者や40代に多いです。症状に伴い苦痛や日常生活への支障を伴い、無治療の場合は不安症や神経症、うつ病など精神疾患の併発も半数以上で見られるといわれています。治療はバランス感覚に対するリハビリテーションや生活指導、抗うつ薬を使用する場合もあります。
PPPDは、緊張などでトイレが近くなる過敏性腸症候群と同様に機能性身体症候群(症状による苦痛や機能障害などが確認できる組織障害の程度に比較して大きい疾患)の1つととらえられていますが、慢性的なめまいに伴う社会的損失や精神疾患の続発・合併など問題視されており、近年めまい疾患の中で注目、治療法の模索が進んでいる疾患です。
加齢性前庭障害
年齢ともにバランスを感じ取る前庭神経や細胞も老化を認めます。一般的には40代で前庭神経の線維数の減少が始まります。50代になると前庭神経内の神経細胞が減少して、60代以降で機能が退化することでふらつき等を感じやすくなります。
高齢者のめまいは、加齢による両側前庭神経(バランス感覚を司る神経)の機能低下から、ふらつき・バランス感覚の低下を来していながらも、病名が特定出来ない例も多く認めていました。(※65歳以上を対象としためまい患者740名を対象にした研究で原因疾患が特定されたものは21%であったという報告があります。)
加齢性前庭障害は2019年に診断基準が掲載されましたが、診断基準として姿勢保持障害や不安定感があること・慢性の浮動性(景色が変わらずふわふわするような)めまいの自覚があること・歩行障害があること・転倒を繰り返すことなどの症状を3か月以上・2項目以上満たすことや、60歳以上であることなどが挙げられます。また、一般的なめまいの検査では基本的異常を示さないことが多く、温度刺激検査やビデオヘッドインパルステストといった一般的なクリニックでは対応できないような精密検査でバランス機能の乱れが発見されます。
また、高齢者のめまいで問題となるのは歩行障害や転倒による二次性の外傷により日常生活の活動度が損なわれることや、認知機能低下との関連も報告されています。
加齢性前庭障害が考えられる場合の治療法としては、基本的に薬物治療よりも平衡訓練、前庭リハビリテーションといった運動が効果的であるといわれています。
ロコモ体操は片足立ちとスクワットを基調とした体操で、ロコモティブシンドローム「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」の予防改善目的で行われる体操ですが、加齢性前庭障害にも推奨されています。音楽にあわせて行うことも可能で実際の動画もありますので、ロコモ体操説明のサイトを添付します。
ロコモ体操 | 健康長寿ネット (tyojyu.or.jp)
外傷が原因のめまい
外リンパ瘻
外傷によって生じるめまい疾患もあります。
外リンパ瘻は、内耳と周囲臓器の間に穴(瘻孔)ができることで、内耳を満たしているリンパ液が漏れだして内耳障害で起こりうるめまい、耳鳴、難聴などの症状を来します。
原因としては力む・鼻をかむなどの動作で耳に圧がかかることで生じる外傷性が多いですが、特に誘因なく発症する例も見られます。
初期症状は突発性難聴と類似しており、突発性難聴が疑われて聴力やめまい症状が変動する場合や、外傷が原因で発症した場合、また遷延するめまい症状においても当疾患が疑われます。診断はcochlin-tomoprotein(CTP)という外リンパ特異的タンパクの検出や、鼓膜の内側を観察して瘻孔を見つけることで行います。
初期治療は突発性難聴と同様にステロイドホルモン治療を行います。加えて頭を30度挙上した状態で安静を保ち、いきみや鼻かみは控えます。診断がついた場合は手術で改善する見込みがあり、内耳窓閉鎖術で瘻孔を閉鎖します。瘻孔は自然治癒する可能性もあるため、手術適応に関しては慎重な判断が必要となります。
めまいや難聴を来す外傷性疾患は、内耳震盪や耳性髄液漏、側頭骨骨折など他にもありますがまた別の機会に説明できたらと思います。