2024年9月30日
コラム2回目はめまい疾患になります。
めまいの原因として耳鼻咽喉科領域の疾患が原因になるものは2/3程度を占めているといわれています。
その中で紹介しきれなかったものをいくつかピックアップしてみます。
後日ホームページにもめまい疾患のページを作成する予定です。
前庭神経炎
前庭神経は脳から内耳にのびる神経の一つで、内耳で得たバランス感覚の情報を脳に伝達しています。この神経に炎症がおきると、突然の強い回転性めまいや嘔気・嘔吐といった症状を来します。その他の特徴としては、めまい症状は持続性ですが、通常3-7日かけて徐々に改善していくこと、脳卒中と異なる点として失神や呂律がまわらないなどのその他の神経麻痺所見がないことなどが挙げられます。
感冒後に発症することも多く、ウイルス感染が一因と考えられていますが詳しい原因は不明です。単純ヘルペスウイルスの前庭神経節への感染が報告された事例もあります。
小児での発症報告はほとんどなく中高年に好発します。
前庭神経を栄養する微小血管の循環障害による症状でも類似の症状を来すことが多く(VBI)、この場合は再発性もあるため、特に高血圧や糖尿病など血管障害のリスクのある方は経過観察が重要です。
診断は眼振検査や温度刺激眼振検査などで行い、初期治療は安静のもとで抗めまい薬の投与を行います。一度痛んだ前庭神経は回復することがないと言われていますが、バランス感覚は対側の内耳や視覚、深部感覚など複数の臓器で担っており、体が片側の神経が痛んだ状態に慣れていって症状を自覚することは経時的に乏しくなります。しかし、jumbling現象といって運動時に視野が揺れてみえる症状が長期的に残ることがあります。
椎骨脳底動脈循環不全(VBI)
バランス感覚の中枢である小脳脳幹部や受容器である前庭器官へ血液を供給する椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作です。虚血の原因としては血栓や血管の炎症、頸椎異常や頸部回旋等の動作などです。基礎疾患として高血圧や糖尿病、脂質異常症がある方はリスクとなります。主たる症状は数分から数時間持続するめまい発作ですが、障害される血管によって耳鳴、温痛覚障害や脱力、視覚異常などの神経所見も合併することがあります。
鑑別としては脳出血や脳梗塞、前庭性発作症等があげられ、眼振検査や神経診察、場合によってはMRI等の画像検査を行います。当院でも眼振検査や神経診察と処方薬の調節を行い、MRI等詳しい精査が必要と判断される場合には適切な医療機関へ紹介します。
治療としては基礎疾患がある場合は、そのコントロールが大切です。めまい発作を反復する場合は抗めまい薬、中でも循環改善作用のあるめまい薬の選択が望ましく、場合によっては抗血小板薬の服用も推奨されます。
前庭性発作症(VP)
同じ一つの病気を異なった側面からみているものとして前庭性発作症(VP)と神経血管圧迫症候群(NVC)が挙げられます。
脳から耳にむかって、聴覚とバランス感覚を司る聴神経と、顔面の運動を司る顔面神経が伸びています。この通り道で脳へと栄養する血管が接触すると(動脈硬化や高血圧などで加齢性に血管が接触するという報告があります)、血流の状況により神経が圧迫されて、めまいや耳鳴・顔面けいれん(意識していないのに顔がぴくぴく動くこと)を来す疾患を神経血管圧迫症候群(NVC)といいます。
また、前庭性発作症(VP)はめまいの国際学会により定義付けられた疾患であり、1分以内に消失するめまい発作を10回以上反復すること、めまい発作に伴い顔面痙攣や聴覚症状などの脳神経症状を認めること、抗てんかん薬のカルバマゼピンが奏功することといった特徴があります。発生機序は神経血管圧迫症候群に伴うものと考えられています。
カルバマゼピンは臨床的に副作用が多く報告され、眠気、ふらつき、倦怠感や採血で肝障害や血小板減少などがみられます。採血異常に関しては重篤化するまで分からないリスクもあり、投与時はしっかりと採血フォローを行うことが望ましいです。当疾患が疑われる場合は総合病院でMRI等の画像精査・治療を行うべきであると考えます。
※神経が圧迫されることにスポットを置きましたが、脳を栄養する血管が圧迫されることが原因となりめまいなどの症状を来す疾患も存在します。
脳神経を栄養する主要な血管には主に椎骨動脈、脳底動脈があります。頭位性椎骨動脈症候群(bow hunterʼs syndrome,BHS)は、頭位変換による椎骨脳底動脈領域の循環不全がおこり、めまいや意識障害・感覚障害などの症状をきたす病態です。
次回もめまい疾患について掲載する予定です。